TVPaint社と日本のアニメーション業界との関係についてプロダクトマネージャーファブリスさんが語るインタビュー

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Lise
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登録日時: 金 7 08, 2016 8:22 am

TVPaint社と日本のアニメーション業界との関係についてプロダクトマネージャーファブリスさんが語るインタビュー

投稿記事 by Lise » 火 4 04, 2017 8:13 am

このインタビューは在留フランス人のためのアニメ業界ポータル「フランス人コネクション」という協会のウェブサイトに記載されました。記事は元々フランス語でしたが日本語ユーザーのため翻訳しました。どぞう。

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紙の上に画を書く伝統的な日本のアニメーションは、中々デジタル技術への移行が進んでいません。十年程前から多くのスタジオで、デジタル化の試みがなされていますが、デジタル革命といえるところまでは達していません。2Dアニメーション制作を技術的に支援するソフトウェアはいくつもありますが、その中でフランスの会社である TVPaint は、2Dに特化したソフトウェアを開発しています。そこで、TVPaint のプロダクトマネージャーのファブリス・ドゥバルジュ氏に、このソフトウェアの特徴と日本のスタジオについてお話を聞きました。


● ファブリスさん、こんにちは。まず、TVPaint の紹介からしていただけますか?そして、このソフトウェアの基本コンセプトはどのようなものですか?


「TVPaint」というと、2つのものを指します:
・1つ目は2Dアニメーション制作用のビットマップ(ラスター:ピクセルベース)ソフトウェアの TVPaint Animationです。開発を開始したのは1991年で、そのときは Amiga(アミーガ)をプラットフォームとして使用していました。現在、そのバージョン11が最新版で、Mac、Windows、Linux、Android 上で動作します。
・2つ目は、フランスのメッス市を拠点としたソフトウェアの開発と販売を手がける TVPaint Développement という会社です。開発や販売以外にも、様々な活動(チュートリアルビデオ制作、トレーニング開催等)をしています。


● 紙に画を描く伝統的なアニメーションの手法に対して、デジタルツールである TVPaint Animation の利点はどういうものですか?


利点として、いくつか挙げることができます:
・コンピュータ上の操作が履歴として残っているので、一旦描いて消した画でも簡単に再現するができます。
・描いた画の修正を簡単に行うことができます。
・時間の大幅な節約が可能です。直接コンピュータ上で描画するため、描いた画をスキャナーに取り込んだり、スキャン時の画のブレを調整したり、線のデータのクリーンアップをしたりする必要がありません。また、アニメーションのタイミングを直ぐに画面で確認することができます。
・物理的に場所を取りません。全てはコンピュータ上のファイルに保存されています。このため、紙に描かれた画を保存しておく場所が必要無くなります。
・携帯できる機器(例えば、Cintiq Companion などの Windows 製タブレット)を使えば、どこでも(スタジオ、喫茶店、公園、公共交通機関等)アニメーションを作ることができます。
・ライトテーブルの「タップ割り機能」の追加されました。しかも、ずらした画を拡大縮小することも可能です。
・アニメーション制作のどの段階でも音声(サウンドトラック)を追加し、アニメーションと同時に再生することが可能です。
・ファイルの受け渡しや共有が、ネット環境があれば世界中のどこでも可能です。
・ストーリーボード(絵コンテ)からアニマティックを直ぐに再生したり、そのままアニメーション作成に移行したり、仕上げ(彩色)をしたりすることができます(全ての機能が集約されたソフトウェアです)。


● デジタルアニメーションのソフトウェアを開発している会社は他にもあります。その中で、TVPaint Animation のストロングポイントは何になりますか?

説明の前に、技術的な概念についていくつか説明したいと思います。
アニメーションにはいくつか種類があります(2D、3D、ストップモーション等)。アニメーション用のソフトウェアも、それぞれに対応しています。TVPaint Développement 社は、今まで2Dアニメーションだけを手がけてきました。
また、2Dアニメーションにも更にいくつかの種類があります。ビットマップ(ラスター)アニメーションとベクターアニメーションです。後者はしばしばカットアウトと呼ばれます。
TVPaint Développement 社は、2Dのアニメーション制作に関してプロ向けのソリューションを提供している唯一の会社で、開発エンジンは完全にビットマップです。

そして、ベクターベースのソフトウェアと違って、ユーザーに対して描画ブラシをカスタマイズして、鉛筆、水彩、毛筆などのタッチを再現出来る自由度があります。
アニメーターの描いた線は、そのまま画面に表示され、描く度に再計算されることはありません。つまり、アニメーター自身が画が描けて、アニメートする力が要求されます。原画と原画の間を自動的に補間して動画を描いてはくれません。
TVPaint Animation は、紙の上に描くアニメーションに限りなく近いソフトウェアです。このため、それぞれのアニメーターが持っているノウハウをそのままデジタル化することが可能になります。また、どんなスタイルの画に対しても適応することができます。


● 現在、世界中で幾つくらいのライセンスが使われていますか?また、どのくらいの数のアニメーターが使っているか教えていただけますか?TVPaint が特によく普及している国はありますか?どのような企画で TVPaint が使われていますか?

世界で、幾つのライセンスが販売されているかは企業秘密なのでお答えできません。
しかしながら、世界のどの地域で使われているかですが、大体以下の通りです。

1/3 のライセンスは、ヨーロッパ地域、
1/3 のライセンスは、南中北アメリカ地域、
1/3 のライセンスは、アジアとオセアニア地域(この地域は、ここ2,3年で非常に普及しています)です。

弊社のソフトウェアは、様々な企画で使われています。
・アヌシー国際アニメーション映画祭に出典するゴブラン学校の生徒作品を始め、多くのアニメ学校(ゴブラン、CalArts、Animation Workshop、京都精華大学等)の卒業制作に使われています。
・長編アニメーション:ソング・オブ・ザ・シー 海のうた、The Prophet、レッドタートル ある島の物語、Ethel & Ernest等
・アニメシリーズ:Tu mourras moins bête、Giggle Bug、甲鉄城のカバネリ、カラフル忍者いろまき等
・CM:Tiji(子供向けケーブルチャンネル)、TSB bank(銀行)、Boiron(製薬会社)等
・ビデオクリップ:Freak Kitchen、Amazarashi『無題』等
・ビデオゲーム:ピクセルで構成されたゲーム、または、AAAタイトルのゲームのアニマティック等


● 次に、日本の市場についてお聞きしたいと思います。日本のアニメ産業は世界で一番の生産量を誇っていますが、非常に閉鎖的で、表現も高度にコード化されています。日本のスタジオに接触を始めたのは、いつごろ、どのようにですか?

日本市場に最初に登場した製品は、「Aura Clay」です。
これは、カメラやウェブカムを使ってコマ撮りをして画像をタイムラインに落としてストップモーション・アニメーションを制作出来るソフトウェアでした。パッケージの中には、ユーザーが自分でクレイアニメーションを作るための「粘土」も付属されていました。

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Aura Clay :日本市場向けに販売された最初の製品


1999年から2000年にかけて、日本の代理店を通して販売していました。当時、インターネット接続では、まだ十分な速度が確保できず、ソフトウェアのダウンロードができないという事情がありました。
2003年には、TVPaint Animation 7 (当時の名称は「Mirage(ミラージュ)」)を完全に日本語ローカライズしました。日本市場で製品として信頼を得るには、これは必須でした。
2009年には、日本での市場調査のため、実際に日本に赴きました。これは、ロレーヌ地方のCCI(商工会議所)と在日フランス商工会議所の共同企画で、この機会に、それまで数年間、メールでのやりとりしかなかった人たちに実際に会うことができ、また新しい出会いもありました。この企画は非常に有意義なものになりましたが、企画に参加する前、在日フランス商工会議所に対して、弊社の活動を詳細に長期にわたって説明する必要がありました。
日本のスタジオでは、非常に歓迎されました。滞在期間の関係上、全てのスタジオからの訪問の要望に応えられなかったのは残念でした。


● 紙の上に画を描く方式のアニメーション制作は、多くの国でほぼ見られなくなりましたが、日本では今でも主流です。アニメーション制作の過程で、紙への描画プロセスをデジタルで行うという手法を日本人はどのように受け取っていますか?

TVPaint には、大きく分けて2つの使い方があります:
・アナログとデジタル折衷型:紙に画を描く工程は変更せず、紙に描いた画をスキャンして取り込み、クリーンアップをし、仕上げ(彩色)をし、コンポジット合成をします。
・完全デジタル型:タブレットPCを使用しても本番にそのまま使える画質の画を描くことが可能です(これにより、大幅な時間の節約が可能)。

日本のスタジオの反応は、デジタルツールをアニメーターが使いこなせるかによって変わってきます。新しく設立されたスタジオでは、デジタル手法も躊躇なく導入できますが、歴史のあるスタジオでは、伝統的な手法に対して非常に愛着があります。しかし、我々の訪問を受け入れてくれた大部分のスタジオでは、紙に描いた画とタブレットを使って描いた画を比べて、その違いがないことに驚いていまいた。現在の日本のアニメーション業界では、デジタルツールはポジティブなイメージで受け入れられています。

また、日本動画協会(AJA)では、様々なデジタルソリューションに対する比較評価を行っています。最近も、協会からの質問に答えたばかりです。


● 欧米ではアメリカ方式が非常に影響を与えましたが、日本のアニメーション制作のメソッドは世界でも非常に独特です。TVPaint Développement は、当初、欧米のメソッドをベースにして開発されましが、日本のスタジオからのフィードバックにより、ソフトウェアのコンセプトに関して大きく見直しをすることになりましたか?

日本に実際に行く前には、確かにこのような心配をしていました。
幸運なことに、最初の来日の際に新海誠監督にお会いして、ソフトウェアの絵コンテ機能に関して何時間も議論することが出来ました。
当時開発中であったソフトウェアのベータ版をお見せして、監督の忌憚のない意見を聞くことができたのは非常に有益でした。
日本に進出するにあたり、ソフトウェアに変更を追加する必要がありましたが(例えば、ストーリーボードをPDFとして出力する際、日本の絵コンテのように縦に画像を並べる様に変更)、TVPaint のコンセプトのソースコードは日本でも通用するものでした。
新海監督との出会いや、数回に渡る来日により、違った文化によって使う手法に違いは出てくるが、2Dアニメーションとそのコンセプト自体は普遍性を持つものであると確信しました。

今では、新しいオプションを追加したり、変更を加えたりする場合、どこの文化圏であっても通じるようなものにするように心がけています。日本のスタジオからは、様々なフィードバックと説明を受けることができ、そのおかげでソフトウェアの開発の方向性を決めることが出来ました。

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TVPaint animationの日本語版のインターフェース


● 日本のスタジオの実際のニーズに応じて追加したり変更した機能はありますか?

スクリプトという形でソフトウェアのエンジンに追加された機能も幾つかあります:

・Windows と Mac のOS上で、日本語の漢字、平仮名、片仮名の表示。
・スケッチパネルに日本で頻繁に使われている色の追加(影やハイライトなどの色トレス)。
・スキャンした画像をクリーンアップする際、色の線をそのまま残す。
・ストーリーボードをPDFとしてエクスポートする際、日本式の縦型絵コンテに対応。
・影などの場合の、色と色との境界線をどちらかの色に変換。
・画像の通し番号をつける新しいシステムの追加。
・タップ穴の画面上での表示。
・スタジオからの要望によりスクリプトを開発し、インターフェースをカスタマイズして制作管理。画像ファイル及び原画や繰り返しなどを考慮したインポート/エクスポート機能の追加。


● デジタルツールは非常に利点が多いと思いますが、日本のスタジオは全ての工程をデジタル化するには中々至らず、まだ紙を使って画を描いています。これの理由をどう分析しますか?

アニメーション制作のシステム全体を変えるのはスタジオにとって非常に難しい選択です。これは日本に限ったことではありません。なぜなら、失敗は許されないからです。
例えば、現在進行中の企画の成功が次の企画の資金原となることがよくあります。このため1つの企画が失敗することは、直ぐそのままスタジオの倒産につながり、従業員を失業させることになりかねません。

また、アニメーターのトレーニングの問題もあります。日本のスタジオは、ヨーロッパのスタジオと比べて規模が大きく(時に、数百人規模)、デジタルへの移行には大きな費用がかかり、また移行のプロセス自体が複雑になります。

しかし、2年連続で2月に開催されているACTF(Animation Creative Technology Forum)に参加した感想ですが、2Dアニメーションのデジタル化には業界として機運が高まっています。


● 日本のスタジオが、こぞってデジタルツールを使った生産体制をとるには、どのような条件が必要だと思いますか?

これには、複数の条件が考えられますが、条件自体は単純なものだと思います。例えば以下の通りです。
・長年使ってきた伝統的なワークフローを変えずに対応できるようなソフトウェアを見つける事。これにより、アニメーターのデジタルへの移行がよりスムーズに行われます。
・アニメーターのグループ内でデジタルツールの専門家を、最低一人確保する事。
・選択したソフトウェアの開発チームと密な連絡をとることで、問題が起きた時の解決策を直ぐに見つけられるようにする事。

TVPaint Développement にとっては、最後の条件が非常に重要になります。ユーザーとの定期的なやりとりによりソフトウェアのテクノロジーを改善させることができるからです。ユーザーの満足度は、我々の再優先事項です。


● ここ十年程、3Dアニメーションのシリーズが次々と制作され、2Dアニメーションの制作は減りました。2Dアニメーション用のソフトウェアを開発している TVPaint としては、この市場の変化をどう考えていますか?伝統的なアニメーションな手法を使った企画は実際に減っていますか?こういう状況の中で、2Dアニメーションの主要制作国である日本は、TVPaint の様な会社にとって魅力的な市場なのでしょうか?

1995年、3Dアニメーション用のグラフィックカードが広く普及したことで、描画と2Dアニメーションに特化していた「Amiga」タイプのコンピュータの時代が終わり、3Dアニメーションが2Dアニメーションを市場から駆逐し、2Dアニメーションは消滅すると言われていました。
ハリウッドでは、トイ・ストーリーが公開され、ディズニーが毎年公開してきた2Dアニメーションにも3Dアニメーションの影響が出始めました。

2016年を迎えた今、2Dアニメーションが消滅するというのは全くのデマであることが証明されました。
ほとんどの3Dアニメーション映画は、他社作品との差別化を図ることができず、作品としての普遍性を得ることもできませんでした。
2Dアニメーションというのは、時代性にあまり左右されないジャンルであり、質感も含めた様々なグラフィックスタイルが可能です。2Dアニメーションは、高価な投資を必要とせず、レンダリングのバッチ処理を行うレンダー・ファームも必要ありません。必要なのはアイデアであり、鉛筆またはペンを使ってひたすら画を描くことです。

このような全体の傾向がありますが、ちゃんとした3Dアニメーションを作るためには、画をかけることと2Dアニメーションをできることが必須条件であることは自明のことです。
最終的には3Dで制作されますが、絵コンテ、ストーリーボード、アニマティック、原画などは、今でも2Dで作られています。

雇用の面では、2Dアニメーションはまだまだ仕事があります。特に日本では、その伝統を守り、それを今に伝えています。
従って、日本は TVPaint にとって大きな潜在的な需要を秘めた市場であると考えています。

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interfaceTVpaintjp2.jpg (105.97 KiB) 2016 回 表示
TVPaint animationの日本語版のインターフェース


● 我々は、日本のスタジオと欧米、特にフランス人のアニメーターとの面白いコラボレーションが可能だと考えています。このサイトを立ち上げたのも、これが大きな動機となっています。この流れの中で、デジタル・アニメーションは、どのような役割を持つと思いますか?


デジタルアニメーションは、日本と欧米の交流を推進出来ると考えています。
デジタル化することで、紙に描いた画を送る必要がなくなるので、距離的に離れたところに住んでいる人たちとの共同作業が可能になります。

その他の例:
・「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、アイルランド、デンマーク、ベルギー、フランス、ルクセンブルクの5カ国で制作されました。
・「Ethel et Ernest」は、ロンドン、カーディフ、コンテルン(ルクセンブルク)の3都市で制作され、ヨーロッパ中の数十人のフリーランスのアニメーターが自宅で作業しました。
・日本のスタジオのシグナル・エムディが、フランス在住のフリーランスのアニメーターも使っているスタジオ・ヤピコ・アニメーションと共同で「ひるね姫」を現在制作中です。


● TVPaint と日本のスタジオとの、今後のコラボレーションのプロジェクトにはどのようなものがありますか?

今まで、フランス在住の日本人の翻訳家(佐藤直幹氏)と一緒に仕事をしてきましたが、今年の7月から、東京に TVPaint の事務所を開設し、日本語に堪能なフランス人のリーズ・メンゼンが常駐しています。これにより、日本のスタジオとの交流が促進され、現地での直接テクニカルサポートを行うことができるようになりました。

それに加えて、重要なイベント(東京アニメフェア、広島国際アニメーションフェスティバル、ACTF等)がある毎にフランスから来日し、ユーザーの要望に応じてスタジオやフリーランスのアニメーターに対してトレーニングを行っています。

また、TVPaint のユーザーのための日本語のディスカッションフォーラムも開設しています:http://forum-jp.tvpaint.com/
フォーラムの一部は、秘密厳守の契約を交わした日本のスタジオ専用で一般の人は閲覧できません。これは、現在開発中の TVPaint 新バージョンのベータテストと個々のスタジオのサポートに際して制作中の作品の情報が外部にもれないためです。



ファブリスさん、我々の質問に対して非常に細かく応えていただいた上に貴重な情報をいただきありがとうございました。TVPaint が、今後日本で益々発展し、日本のスタジオの制作に対して、より多くの柔軟性を提供することで、海外に住むアニメーターとのコラボレーションが促進されることを期待しています。


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Lise Menzin (リーズ) TVPaint Team Member (東京駐在員事務所の担当者)

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